コラム
COLUMN in a monthly

ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第18回 三つの調べごと

 表題の「三つの調べごと」というのは、次のようなものです。
  一. ○○さんに何をしていただきましたか。
  二. ○○さんにどのようなお返しができましたか。
  三. ○○さんにどのようなご迷惑をおかけしましたか。
 これは奈良の故吉本伊信先生(1916年~1988年)が、今から50年ほど前に編み出した「内観法」で用いられる自己への問いかけの言葉です。吉本先生は、親鸞上人の「身調べ」をベースにして、そこから宗教的な部分を取りのぞき、日本独自の心理転換技法を生み出したのです。

 内観には主として二つの大きな目的があります。一つは自己発見・自己啓発であり、もう一つは現在かかえている問題解決のために行います。
 また内観には、集中内観と日常内観があります。集中内観は、内観法を身につけるために研修所などで集中的に行うもので、日常内観は日常生活を営みながら行うものです。
 集中内観では、部屋の四隅を屏風で囲んだわずか半畳ほどの空間に静かに座り、自分の半生を振り返ります。そして、具体的な誰かに対して(両親、先生、仲間など)、先ほどの三つのことを調べていきます。これを1日13時間、7泊8日、のべ100時間ほど続けるのです。
 人間は死ぬ間際になると、自らの一生をまるで走馬燈のように一瞬にして目にすることができるとよく言われます。集中内観はこれに先立って1週間、100余時間のあいだに、自分の半生を見つめ直すという作業です。
 つまり世間とは隔絶して、1週間にわたり朝から晩まで、ひたすら自分の歩いてきた道をたどり、そのあいだの自分の行状を振り返ります。そうすると次第に、自分がこれまでどれほど多くの方々に支えられて今に至っているのかに深く気づくようになります。
 またこの方法は、ひところ世間を騒がせた「マインド・コントロール」などとも明らかに異なっています。それというのも内観法では仮に100時間座り続けていても、誰かからこのように考えよと指示されるようなことはありません。こうした点からも私は、内観法は東洋的精神修行法の伝統である「独悟」というやり方を踏襲しているすばらしい方法だと考えています。

 私がこの内観の修行に行ったのは、1990年の暮れのことでした。実際に内観をやってみると、自分がどれほど感謝の心を忘れ、思い上がっていたかに気づくことができました。この時、私はすでに大学の教師になって10年近く経っていました。あちこちで指導したりする機会も増えていたので、きっといっぱしの先生面をしていたのでしょう。
 ところが内観をしてみると、自分の力だけでここまでなったかのように錯覚していたのに気づきました。まず両親がいて先生がいて、そういういろいろな人たちからお世話になって今がある、という仕組みがよくわかってきたのです。自分の半生を振り返って、涙が出るような思いを何度もしました。そして1週間が経ち集中内観を終えると、びっくりするほど心が軽くなっている自分がいました。

 その後、私と同じ大学で教授をしている家内も集中内観に行きました。また、二人の息子もすでに集中内観を経験しました。そのお陰でしょうか。毎週のように全国を飛び回る生活を続けている私ですが、家庭的なことでストレスを感じたことはほとんどありません。
 また、私が指導しているたくさんのトップスポーツ選手たちも集中内観に行き、心の整理をすることで活躍を続けています。
 お忙しくて集中内観に行けないという方でも、目覚めたときと眠りにつく前に、ほんの少しの時間で結構ですから、冒頭の三つの調べごとをやってみてください。すると皆さんの心に、心の力の中でももっともパワフルな「感謝の心」が少しずつ築き上げられていくことと思います。

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