コラム
COLUMN in a monthly

ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第20回 早起きは三文の徳

 みなさんの中には明確な目標を設定し、それを確実に達成するために日々お仕事に邁進されている方もいらっしゃることと思います。そこで今回からは、毎日の生活の中に、どのようにメンタルトレーニングを取り入れていけば良いのかについてお話ししていくことにします。
 昔からのことわざに、「早起きは三文の徳」というのがあります。『故事ことわざ辞典』には、「早起きすると、何かしら得になるものだということ。徳は得に同じ」と書かれています。これに匹敵する英語のことわざは、“The early bird catches the worm.”(早起きの鳥は、虫を捕まえる)。どちらも「早起きするといろいろ良いことがあるよ」ということです。
 確かに古今東西の偉人伝をひもといても、ゲーテやカントをはじめとして(毎朝5時起床)、宵っ張りの朝寝坊など一人としていないといってよいでしょう。私の住んでいる福島県には、「朝寝、朝酒、朝湯が大好きで、それで身上つぶした。あー、もっともだー、もっともだー」とうたわれる小原庄助さんのお話が残っています。なんとも優雅な生活ですが、これではやはりうまくいかないようです。

 東北楽天イーグルスの元監督・野村克也氏は、よく色紙に「念ずれば、花ひらく」とお書きになるそうですが、これは野村監督ご自身の言葉ではありません。四国に住む有名な仏教詩人の坂村真民先生がお作りになった詩の一節です。
 真民先生はある取材の中で、「毎朝、午前1時に起床する」と語っておられました。そこから夜が明けるまでの深々廟々たる大気のエネルギーこそが、詩作にはもってこいだというのです。もちろん、私も含めてみなさんが真民先生のまねをすることはできませんが、朝、それも早朝は、心と体を調えるゴールデンタイムだと私は考えています。

 私が体操の選手をやめてコーチになってから、今年で34年余りになります。当時は、今のようにメンタルコーチではなく、筑波大学の男子体操部のコーチでした。私がコーチとして最初に選手たちに要求したのは、朝6時半には体育館に集合して、次回ご紹介する「ザリヤートカ」という特殊な調整体操を行うことでした。
 中学や高校では、授業も1時間目からありますし、何よりも指導者の先生が選手たちのコンディションを考慮して、技術ばかりでなく生活面の指導もしっかりなされていることが多いものです。ところが、大学生になった途端に、そうしたタガがはずれてしまいます。するとちょっと心の弱い選手は生活のコントロールを失い、「夜更かし」「朝寝坊」「授業のさぼり」「食習慣の乱れ」となどが重なって、せっかくの力を十分に伸ばせないことが多いのです。
 当時、そうした事例をずいぶん目にしていた私は、これでは才能のある選手がつぶれてしまうと心を痛めていました。そこで新米コーチではありましたが、何よりも最初にやったのは、「早起き」と「体操」、つまり朝飯前にやるべきことをちゃんとやって、1日をフレッシュな心身の状態で迎えようということだったのです。

 ここでもう1つ。「朝飯前」というのもおもしろい言葉ですね。辞書を引くと「(朝飯を食べる前にできることから)容易なこと」とあります。でも朝なかなかベッドから起きだせない今の多くの日本人にとって、「朝飯前」はほんとうに容易なことでしょうか。
 私はまず、この朝飯前にやるべきことを選手たちに徹底しました。最初は、それまで勝手気ままにやっていた選手たちから、ずいぶん不平や不満が出ました。しかしこれだけは決して譲りませんでした。何しろ13年間も全日本のタイトルから遠ざかっていたチームを、わずか4ヶ月ほどで優勝させたいと、心の底から思っていたからです。
 習慣の形成には、少なくとも3週間が必要だと言われています。そうです。3日では習慣にはならないのです。良き習慣をつくることこそが、自己を変える第一歩となります。

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