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ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第21回 ザリヤートカ

 2月の初めに、国体開催県である秋田に講演で行ったことがあります。前年は記録的な大雪で除雪が大変だったというのを聞いておりましたが、その年はまったく雪がありませんでした。
 講演が終わった夜、能代工業高校バスケットボールを率いて何度となく全国制覇を遂げられた加藤廣志先生と会食しました。加藤先生は、「日本一勝ち続けた男」と呼ばれ、バスケットボール界では「神様」といわれている方です。私が先生と初めてお会いしてから17年ほどが経ちます。先生は、今年で77歳になられたということですが、今も精力的に全国を飛び回っておられます。
 先生の健康の秘訣は、毎朝1時間のウォーキングだということでした。それも雨だろうが大雪だろうが、一日たりとも休んだことがないというのですから驚きです。

 前回は「早起きは三文の徳」と書きました。「朝飯前」という言葉は「こんな問題は朝飯前だ」というように、「朝飯を食べる前にできる容易なこと」の意味で使われていますが、ただ早く起きただけで何もしないのでは意味がありません。
 加藤先生ならずとも、朝、散歩をするとかラジオ体操をするといった具合に、朝の時間をご自分の健康を保つために使っている方はたくさんいるのではないでしょうか。しかしこうしたことは、継続して行われなくては効果がありません。そのためには、それこそ朝飯前という言葉が意味するように、手軽にできて、終わった後に心地よさが残るようでなくてはならないのです。

 さて、それではどんなことをしたらよいのでしょうか。現在、私が選手たちに指導している内容については、次回以降で詳しく述べますが、今月はその考え方の原点となった「ザリヤートカ」についてご紹介しておくことにしましょう。
 ザリヤートカというのはロシア語で、1950年代から旧ソ連で行われていた朝の保健体操のことです。当時、ソ連にクレストフニコフというスポーツ生理学の第一人者がおりました。彼はザリヤートカの生理学的研究を行い、これを行うことによって、体のいろいろな器官が睡眠状態から活動状態へとスムーズに移行することができると証明したのです。
 このことを本家本元のソ連よりも大切にし、世界制覇の大きな武器として独自にアレンジしたのが、日本の男子体操チームでした。当時、日本チームのリーダーであった金子明友先生(筑波大学名誉教授)が、1960年のローマオリンピック(日本の初優勝)を前にして、ソ連のさまざまなトレーニングを研究した結果、導入されたのです。

 朝のトレーニングというと、すぐに「朝練」という言葉が頭をよぎるスポーツ選手が日本には結構います。先日もJリーグのあるチームでこの話をしていたら、「エッ、先生、また高校のときみたいに朝練をやるんですか」と聞かれました。彼らが高校時代に行った朝練の内容を尋ねてみると、朝の5時半から7時までにボールリフティングからシュート練習まで行うというものでした。しかし、これはザリヤートカではありません。ザリヤートカはその日の本練習や試合で最高の動きができるように、30分ほどの時間で筋肉や内臓諸器官、あるいは神経系に適度な刺激を与え、目覚めさせようとするものです。ですからエネルギーの消費は大きくありませんし、むしろ寝ている間に空になった体というバッテリーに充電をするようなイメージのほうが強いのです。このためザリヤートカというロシア語には、充電トレーニングという日本語があてられていたほどです。
 学校の部活動の場合には、放課後の練習時間が十分とれないという問題もあって、いきおい早朝に激しいトレーニングを入れてしまいがちです。しかし、これはコンディションを調えるという点からは、あまり良いこととは言えません。
 次回は、手軽で(朝飯前の)、しかも効果の高い心身調整法をご紹介したいと思います。

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