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ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第25回 イメージトレーニング2

 イメージトレーニングというと、多くの人は視覚的なイメージ、つまりフォーム(形)を想い描ければ良いと考えがちです。
 しかし、私たち人間には視覚のほかにも聴覚、嗅覚、味覚、触覚という感覚器官があり、これらによって外界の情報を正確にキャッチして、適切な行動をとることができています。本当の意味で鮮明なイメージを想い描くというのであれば、五感を総動員したイメージでなければならないのですが、一般的には、視覚、聴覚、触覚の3つの感覚器官でとらえたイメージを想い描ければ十分かもしれません。
 私は、アトランタオリンピックでは女子バスケットボールチームの、そしてシドニーオリンピックでは新体操チームのメンタルコーチを務めました。また2007年5月に、全日本男子バレーボールチームのメンタルコーチに就任しました。今回はアトランタオリンピックに向けて行った、バスケットボールのイメージトレーニングの事例を紹介しましょう。

 オリンピックの期間中、現地では『デイリー・スポーツ・イラストレイティッド』誌が毎日発刊されました。その中で日本選手として唯一取り上げられたのが、女子バスケットボールチームだったのです。それは女性版ドリームチームと呼ばれるアメリカに対して、はるかに小兵の日本が93得点も取ったという事実が、アメリカ人記者を驚かせたためだったと思われます。
 その記事には、日本チームのすごさとして、「正確無比なフリースロー」「高度に訓練されたチームプレー」「7mの上空からゴールに飛来するスリーポイントシュートの確率の高さ」の3つが挙げられていました。このようにアメリカ人からも絶賛された日本チームのシュートですが、その練習の中に私が組み込んだのが、シューティングのイメージトレーニングでした。
 オリンピックの4ヶ月前から、前回紹介した基本イメージトレーニングを指導しました。その上で、バスケットボール選手の命ともいうべきシュート練習の中に、イメージトレーニングを取り入れました。つまり、シュート練習の際に、イメージシューティングと実際のシュート練習とを交互に行うよう指導したのです。

 例えば、日本チームの最大の武器であるスリーポイントシュートを練習する際に、選手たちは通常2分間で40本ほどのシュートを打っていました。従来のやり方では、少しのシュート練習で延べ500本のシュートを打っていたことになります。
 これに対して私は、実際に2分間シュートを打つ前に、まずイメージで2分間シュートするように指導したのです。それも周囲の情景やボールの感触、ゴールした瞬間にボールがネットをこする音に至るまで、できるだけリアルに想い描くように指示しました。
 実際にシュート練習をする場合には、何度やっても40本プラスマイナス1本程度の本数を打つわけですが、イメージでシューティングする場合には、もしもイメージが不鮮明だったり集中力を欠いたりすると、シュートの本数が極端に減ってしまうということが起こるのです。
 さすがに日本のトップクラスの選手たちでした。イメージでもほとんど同じ本数を打つことができるようになるのに、たいして時間はかかりませんでした。

 しかし、初めのうち彼女たちが異口同音に口にしたのは、「先生、イメージトレーニングと実際のシュート練習を併用すると、ものすごく集中するので疲れます」という言葉だったのです。もちろん、この疲れというのは、決して肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労であることはいうまでもありません。
 野球に限らず、多くのボールゲームでは「一球入魂」という言葉がよく使われますが、それはこうした全身全霊を傾けた練習を、日頃から積み重ねた結果として実現することなのではないでしょうか。

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