コラム
COLUMN in a monthly

ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第26回 コミュニケーション・スキル

 人間と動物を区別する第一の特徴は直立歩行ですが、2番目には言葉を持っているということが挙げられるでしょう。私たち人類は、言葉によって経験や知識を他人との間で分かち合い、高度な文化を築き上げてきました。言葉はコミュニケーションの第一の手段です。
 職場で部下が上司の一言一句に敏感に反応するのは当然です。そしてお互いがとても強い信頼で結ばれているほど、上司が発する言葉の影響力は大きくなります。だからこそその言葉には、十分な配慮が必要なのです。つまりリーダーは、自分の意図を分かりやすく正確に伝え、意欲や自信を喚起するコミュニケーション・スキルを身に付ける必要があります。
 インナーゲームの手法にヒントを得て、ビジネスにコーチングを取り入れたイギリスのジョン・ホイットモアは、「コーチングの最大の目的は、選手に問題意識と責任感を持たせることだ。そのためには指示や命令をやめて、選手に質問するように話しかけることだ」と言います。

 また同氏は、「従来の『ああしろ、こうしろ』という教え方は命令文ばかりを使うので、やる気や自主性が生まれてこない。部下の能力を十分に引き出し、常にやる気と自覚を持たせるリーダーになりたければ、できるだけ疑問文を使って対話するようにしなさい」と言っています。
 例えば、野球で選手がエラーをした場合、指導者が「罵声→追求→命令→否定命令」の順で、「馬鹿野郎!どうしてお前はそんなにエラーばかりするんだ。しっかりダッシュしろ。待って捕るな!」と咎めることがあるかと思います。こうした言葉は、本当に次のエラーを防ぐための指導になっているのでしょうか。

 日本人の多くはこのような指導に慣れてしまっていて、その是非を問う感覚がすっかり麻痺しています。選手の持っている力を十分に引き出したいのであれば、怒りの感情を含んだ指示や命令は、百害あって一利なしです。
 「選手は叱りとばせば育つ」と勘違いしている指導者には、何ともまだるっこしいやり方に思えるかもしれませんが、エラーした選手にこんなふうに聞いてみるのです。「前にダッシュできたか?ゴロを捕るときに腰はよく落ちていたか?バウンドのどの辺りでキャッチしようとしたか?」
 このような疑問文による問いかけに対して、選手自身がしっかり答えられるようにするだけで、選手のボールに対する集中力ははるかに増し、結果的にエラーが少なくなります。そうなったら今度は大いに褒めれば良いでしょう。
 よく、褒めることの大切さが説かれます。指導者もそんなことは分かっているのですが、ミスばかり続いては、いったいどこを褒めれば良いのだと言いたくなるでしょう。しかし、だから怒るというのでは指導者としての手腕を問われます。こんなときこそ次にはうまくやれるような言葉かけをしてやり、少しでも良いところが出たら、間髪を入れず褒めるのです。指導者とは、結果が出てから褒める人のことではなく、褒められるような結果が出るように仕向ける人のことなのではないでしょうか。

 みなさんもよくご承知のように、英語の代表的な疑問詞に5W1Hがあります。「いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どんなふうに(How)」は、自らの意思を他人に伝えるための大切な要素です。
 ただし、5W1Hの中にもコーチングでは使うべきでない疑問詞が1つだけあります。それは「どうして」という意味のWhyです。このWhyはなぜ使うべきではないかというと、先ほどの例で言えば、「どうしてエラーしたのか言ってみろ」といった詰問のニュアンスが含まれているからです。しかも「どうして……」と問い詰めておきながら、選手が「監督、それは……」と答えようものなら、「うるさい、言い訳するな」とばっさり斬り捨ててしまいます。これでは選手のやる気や自信を育むことは難しいでしょう。

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