コラム
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ビジネスに活かす
メンタルトレーニング

本稿は自動車雑誌連載記事です。

第29回 休むために働くか、働くために休むのか

 今回からは、ドイツ体育大学で長期間にわたり在外研究をしていた頃に感じたことをご紹介します。
 第二次世界大戦の敗戦国であるドイツは、極貧の状態からヨーロッパ最大の経済大国へと駆け上っていきました。こうした経緯は日本と非常によく似ています。1990年東西ドイツの統一後しばらくは不況になりましたが、今もってユーロ経済圏の中心であることに変わりはありません。
 私はこれまでも何度となくドイツを訪れてきましたが、試合や学会、講演などで、長くてもせいぜい10日ほどの滞在でした。そうした中では気づかなかったことが、長期間の生活をしているとあれこれ見えてくるようになりました。

 日本人の勤勉さは世界的に有名ですが、これは賛辞として言われる場合と、やや皮肉めいて言われる場合の両方があると思います。ドイツ人の勤勉さもやはり、ヨーロッパの中では群を抜いているのではないでしょうか。
 ところが、この勤勉の質が日本人とは少し違うように思います。たとえば休日の過ごし方です。滞在前、『休むために働くドイツ人、働くために休む日本人』(福田直子さん著)を読んだことがありましたが、そのときはあまり気にとめていませんでした。しかしこちらで暮らしてみると、このことが実感としてよくわかります。
 ドイツ人は週末の休みばかりでなく、長期の休暇も含めて自分たちの余暇時間を本当に大切にしています。そしてその時間の使い方がとてもアクティブです。仕事に疲れて土日はごろ寝という人もいるかもしれませんが、その数は日本人よりはるかに少ないと思います。また日本では、休日に会社の同僚とゴルフという方もけっこういると思いますが、ドイツ人にはこの感覚をまったくわかってもらえません。「どうして休日にまで仕事の人間関係を引きずるのだ。休日は家族と過ごすに決まっているだろう」というわけです。
 日本にいるときの私は、平日は大学で教鞭を執っており、週末は全国各地で講演かスポーツ選手の指導をしていましたから、休みなどそれこそ1年に数日という生活でした。ですから、ドイツ滞在を初めて2ヶ月ほどは、土曜も日曜も研究室に行っていました。デスクがある10階の研究室からは、大聖堂をはじめ市内を一望できます。同じ階で働く研究者たちは40~50人いるのですが、週末はまず誰にも会うことがありませんでした。

 あるとき、25年ほど付きあいのあるドイツの主任教授が、私のところへやって来てこう言ったのです。「おい、ユタカ。お前は毎週、土曜日も日曜日もずっと研究室に来て仕事をしているらしいじゃないか。日本人が仕事熱心なのは知っているけど、それは良くないんじゃないのか。」
 ドイツ語に、「fleißig」 という言葉があります。「まじめな」「勤勉な」という意味です。会話の中でもよく使われる言葉ですし、悪い言葉ではないのですが、のべつまくなしに「fleißig」では、人間としてちょっとどうなのか、ということなのでしょう。同じように仕事を一所懸命やるという場合に、彼らがよく使うのは 「intensiv」 という言葉です。これは英語とまったく同じで、「集中して」という意味です。
 金曜日の仕事が終わるとみんなそそくさと帰って行きます。その際に必ず彼らが口にするのは、「schönes Wochenende」 という言葉です。意味は、「よい週末をお過ごしください」です。これに対して、「Danke, gleichfalls」―「ありがとう、あなたもね」と答えるのが決まり文句です。決まり文句ですから、まるでオウムのように繰り返していたのですが、私自身が2ヶ月間もまったく「schönes Wochenende」を過ごしていなかったのです。
 こうして3ヶ月目からは、週末になるといっさい仕事はせずに、あるときは森の中を散策し、またあるときは町へ出て、肌でドイツを感じるようにしました。ドイツ体育大学にはすばらしいスポーツ施設が完備されています。大学の周りには広大な森が広がり、1時間以上歩いてもまだ森は続きます。その中をたくさんの人が歩いたり、ジョギングをしたりしていました。ベンチで本を読む人や、日がな一日、芝生に寝そべって日光浴をしている人もいました。何をするかそれぞれ違っていても、休みという時間を自分のために積極的に過ごそうという、ドイツ人の気概が感じられました。

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